※お酒は20歳になってから
静岡県焼津市で天保元年から続く老舗酒蔵「磯自慢酒造」が醸す「磯自慢」は、2008年洞爺湖サミットや2016年伊勢志摩サミットの乾杯酒として選ばれた日本を代表する銘酒です。静岡型吟醸の代表格として知られ、2025年のサケコンペティション純米酒部門では1位を獲得しています。
日本酒業界初のテロワール概念を導入し、現代の名工に選ばれた多田信男杜氏が手掛ける磯自慢の歴史、種類、購入方法について詳しく解説します。

磯自慢とは?静岡を代表する日本酒の歴史と特徴

磯自慢について知る上で重要なのは、その歴史と静岡型吟醸としての特徴です。それぞれを詳しく確認していきましょう。
天保元年創業の老舗蔵の歴史
磯自慢酒造は天保元年(1830年)に静岡県焼津市で創業した老舗酒蔵です。江戸時代に創業した多くの酒蔵がそうであったように、磯自慢酒造も焼津の大地主であったと考えられています。元々本業は農家で酒づくりは副業でしたが、本格的につくり始めたのはここ70〜80年くらいのことです。
当時は大地主が年貢米の集積・輸送を代行し、武士の俸禄として米を納め市場に流通させていました。そして、その過程で発生する余剰米で、商品価値の高い「酒」を造り始めます。戦後の農地解放により、副業であった酒造りが本業となりました。
1970年代から1980年代にかけて、日本酒業界全体が厳しい状況に直面する中、磯自慢酒造は高品質な酒造りへと大きく舵を切りました。この転換期の決断が、現在の磯自慢の成功に繋がっています。
静岡型吟醸の代表格としての地位
「磯自慢」はときに、静岡型吟醸の代表とも称されます。静岡型吟醸とは、フルーティな香りとさっぱりとした飲み口を特徴とする静岡県独自の酒造りスタイルで、静岡酵母や酢酸イソアミル系統の伝統酵母を使用した日本酒の特徴を表します。磯自慢は酒どころのイメージがなかった静岡県の吟醸酒を、一気にメジャーに押し上げる原動力となった存在です。
2008年の洞爺湖サミットや、2016年の伊勢志摩サミットでも各国の首脳に振る舞われるなど、今や日本を代表する蔵元となった「磯自慢」として国際的にも認知されています。2008年のG8北海道洞爺湖サミットの乾杯酒として「中取り純米大吟醸35」が採用され、この限定品にはシリアルナンバーが付けられており、そのうち0051番は毎年イチロー選手に贈られているという話もあり、著名人にも愛飲されています。
「磯自慢」は、その名のとおり、海に面した焼津の地で育まれた”海の酒”です。古くからの漁港として知られた地にふさわしい、さっぱりとした辛口の酒として、海の男たちから人気を集めてきました。

磯自慢 純米大吟醸 中取り35 720ml 日本酒
磯自慢の種類と味わいの特徴

磯自慢の商品ラインナップと味わいの特徴、そして品質の高さについて確認していきます。
主要ラインナップの紹介
磯自慢は特定名称酒のみを製造し、大吟醸から本醸造まで幅広いラインナップを展開しています。業界に先駆け、「吟醸酒」「純米酒」など特定名称酒だけの製造に切り替えたことで、「磯自慢」は全国の日本酒好きから人気を集め、近年の日本酒ブームを牽引する存在になりました。
代表的な商品
【大吟醸 一滴入魂】酒米:特A地区東条秋津特上AAA 山田錦100% 精米歩合:ALL45%
【純米大吟醸50】酒米:特A地区東条特上米山田錦100% 精米歩合:ALL50%
【純米吟醸】酒米:特A地区東条特上米山田錦100% 精米歩合:麹55% 掛60%

磯自慢 大吟醸 一滴入魂 東条山田錦 720ml 化粧箱入り
東条山田錦が生み出す上質な味わい
「磯自慢」の主要な酒米は、兵庫県加東市で生産される酒造好適米「山田錦」を使用しています。加東市は全国でも数少ない「特A地区」にあたり、最高ランクの酒米が獲れる地として名を馳せています。磯自慢酒造で使用する全酒米の約65%が、この兵庫県特A地区で収穫される契約栽培米の東条山田錦です。また、特A地区吉川産の「愛山」なども使用しています。
さらに2010年からは、日本酒業界初となるテロワール(生産地指定)の概念を導入しました。東条秋津の「古家」「常田」「西戸」という3つの区画で収穫される山田錦だけを用い、それぞれを区画ごとに醸造する画期的な取り組みです。これはワインのグランクリュに相当する概念で、これほど厳格な生産地指定は日本酒業界でも類を見ません。
この3種類はそれぞれブルーボトルとして商品化され、古家は7月、常田は9月、西戸は11月に発売されるなど、田んぼの個性を活かした酒造りを実践しています。
サミットでも選ばれた品質の高さ
磯自慢は国際的な場でも高く評価される品質を持っています。蔵の内部は全面ステンレス張りで全室空調を完備し、まるで冷蔵庫のような環境で酒造りを行っています。この設備により雑菌の繁殖を防ぎ、温暖な静岡の気候でも高品質な酒造りが可能となっています。もろみを入れるタンクにはガラスをコーティングし、県内でも珍しい急速加熱・急速冷却機能を備えた火入れ装置を導入するなど、磯自慢でしか見られない設備を多数導入しています。
2017年からは蔵史上最高の19%精米をした最高峰のお酒の販売を開始。2025年のサケコンペティション純米酒部門では1位を獲得し、2010年のロンドンで開催されたインターナショナル・ワインチャレンジのSAKE部門でも「純米酒の部」「純米吟醸酒・純米大吟醸酒の部」の2部門でゴールドメダルを受賞するなど、世界的な評価を獲得しています。
多田信男杜氏(82歳)は1997年から磯自慢の杜氏を務め、2020年に「現代の名工」に選出されました。現在は名誉杜氏として、次世代の技能者育成にも力を入れています。
磯自慢の購入方法と楽しみ方

磯自慢をどこで購入できるか、そしておすすめの飲み方について確認していきます。
購入できる場所と価格帯
磯自慢は限られた特約店での販売となっており、価格は商品により大きく異なります。全国に特約店は少なく、東京でも約7店ほどと入手も困難という流通体制を取っています。品質維持のため限定的な流通を行っています。
主要な購入場所として、はせがわ酒店、横浜君嶋屋オンラインショップ、ヴィノスやまざきなどがあります。価格の目安として、特別本醸造720mlが約2,000円、大吟醸720mlが約5,000円、最高級品の大吟醸28 Nobilmente 720mlが約22,000円となっています(価格は変動する場合があります)。
多くの商品で「お一人様1本限り」という購入制限があり、人気商品は売り切れることも多いため、事前の確認と予約が重要です。

2025年 純米大吟醸 ブルーボトル 古家 720ml (磯自慢酒造)(静岡県)
おすすめの飲み方と料理との合わせ方
海の幸との相性がよく、食中酒としても親しまれてきた磯自慢は、適切な温度管理と料理との組み合わせが重要です。焼津という港町で育まれた日本酒らしく、スッキリとして丁寧な造りからの味わいが特徴です。
磯自慢 大吟醸は特A地区東条秋津特上AAA 山田錦を使用。45%精米の大吟醸。スッキリとしたフルーティーな香りが心地よく、味わい深くバランスの取れた綺麗なお酒です。魚介のお料理とのマリアージュ、食中酒としてもお楽しみ頂けます。実際に焼津を訪れた方からは「ややフルーティで甘みが前に出る感じがあるが、カツオの刺身にも負けない強さが良い」という評価も寄せられています。
フルーティーで満足でき、そよ風のような味わいで、自然な風味を楽しめます。冷やして飲むのが一般的ですが、常温でも美味しく味わえるという飲み方も推奨されています。
まとめ

磯自慢は天保元年(1830年)創業の磯自慢酒造が醸す、静岡型吟醸の代表格として知られる日本酒です。兵庫県特A地区東条産山田錦を使用し、2010年からは日本酒業界初のテロワール概念を導入した徹底した品質管理により、2008年洞爺湖サミット、2016年伊勢志摩サミットの乾杯酒として選ばれるなど国際的な評価を獲得しています。
特定名称酒のみを製造し、大吟醸から本醸造まで幅広いラインナップを展開。全国の限られた特約店での販売となっています。2025年のサケコンペティション純米酒部門では1位を獲得し、現代の名工に選ばれた多田信男杜氏(82歳)が名誉杜氏として品質向上に努めています。
海の幸との相性が良く、食中酒としても優れており、適切な温度管理で楽しむことが推奨されています。磯自慢は日本酒の品質向上と静岡県の酒造業界発展に大きく貢献した銘酒として、今後も注目すべき存在といえるでしょう。

2025年 純米大吟醸 ブルーボトル 古家 720ml (磯自慢酒造)(静岡県)
Q&A
Q1: 磯自慢はどこで購入できますか?
A1: 全国の限られた特約店での販売となっており、東京でも約7店ほどと入手困難です。はせがわ酒店、横浜君嶋屋、ヴィノスやまざきなどのオンラインショップでも購入可能ですが、多くの商品で購入制限があります。
Q2: 磯自慢の価格帯はどのくらいですか?
A2: 商品により大きく異なり、特別本醸造720mlが約2,000円から、最高級の大吟醸28 Nobilmente 720mlが約22,000円まで幅広く展開されています。価格は変動する場合がありますので、購入時に確認してください。
Q3: 磯自慢はなぜサミットの乾杯酒に選ばれたのですか?
A3: 兵庫県特A地区東条産山田錦のみを使用し、全面ステンレス張り・全室空調の蔵での徹底した品質管理、現代の名工に選ばれた多田信男杜氏による伝統技術、さらに日本酒業界初のテロワール概念導入などにより世界レベルの品質を実現しているためです。
Q4: 磯自慢の最新の受賞歴は?
A4: 2025年のサケコンペティション純米酒部門で1位を獲得しています。また、2010年のロンドンで開催されたインターナショナル・ワインチャレンジのSAKE部門でも2部門でゴールドメダルを受賞するなど、国際的な評価を継続して獲得しています。
Q5: テロワールとは何ですか?
A5: 磯自慢が2010年から導入した日本酒業界初の概念で、兵庫県東条秋津の「古家」「常田」「西戸」という3つの区画を指定し、それぞれの区画で収穫された山田錦のみを使用して醸造する手法です。ワインのグランクリュに相当する取り組みです。
Q6: 磯自慢に合う料理は何ですか?
A6: 焼津の海の酒らしく海の幸との相性が特に良く、カツオの刺身や魚介料理全般におすすめです。食中酒として優れた特性を持っています。
Q7: 磯自慢の特徴的な味わいは何ですか?
A7: 静岡型吟醸の代表格として、フルーティーで華やかな香りとすっきりとした飲み口、上品でバランスの取れた味わいが特徴です。辛口でありながら品格のある仕上がりとなっています。
参考文献
- 磯自慢酒造公式サイト
- 静岡県酒造組合「現代の名工」
- 静岡県酒造組合
- 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」