※お酒は20歳になってから
「職場の飲み会で無理にお酒を勧められて困っている」「飲み会に参加しないと評価に響くと言われた」そんな悩みを抱えていませんか?
これらは「アルハラ(アルコールハラスメント)」と呼ばれる深刻な問題です。NPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)によって正式に定義されているハラスメント行為で、時には命に関わる危険な状況を招くこともあります。
この記事では、NPO法人ASKの公式定義に基づくアルハラの基本知識から、具体的な対処法、利用できる相談窓口まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。あなたが安心して働ける職場環境を手に入れるための実践的な情報をお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
アルハラ(アルコールハラスメント)の定義と5つの行為類型

NPO法人ASKによるアルハラの公式定義と5項目
アルハラ(アルコールハラスメント)とは、「飲酒にまつわる人権侵害。命を奪うこともある」とNPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)が定義する深刻な問題です。単なる職場の慣習や軽い冗談では済まされない、生命に関わる危険なハラスメント行為として位置づけられています。
NPO法人ASKとイッキ飲み防止連絡協議会では、アルハラを以下の5つの主要な行為類型に分類しています。1つ目は「飲酒の強要」で、上下関係や部の伝統、集団によるはやしたて、罰ゲームなどといった形で心理的な圧力をかけ、飲まざるをえない状況に追い込むこと。2つ目は「イッキ飲ませ」で、場を盛り上げるために、イッキ飲みや早飲み競争などをさせること。「イッキ飲み」とは一息で飲み干すことで、早飲みも「イッキ」と同じく極めて危険な行為です。
3つ目は「意図的な酔いつぶし」で、酔いつぶすことを意図して飲み会を行うことです。ひどいケースでは吐くための袋やバケツ、「つぶれ部屋」を用意していることもあり、これは傷害行為にも該当する悪質な行為です。4つ目は「飲めない人への配慮を欠くこと」で、本人の体質や意向を無視して飲酒をすすめたり、飲めないことをからかったり侮辱したりすることです。5つ目は「酔ったうえでの迷惑行為」で、酔ってからむこと、悪ふざけ、暴言・暴力、セクハラ、その他のひんしゅく行為を指します。
職場におけるアルハラは、2022年4月から全企業で義務化されたパワーハラスメント防止法(労働施策総合推進法)の対象にもなる場合があります。優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害する行為として認定される可能性があり、企業には法的な対応義務が生じます。
職場で頻発するアルハラの具体例と深刻な問題点
職場でのアルハラは、様々な形で発生しています。飲酒の強要では、「俺の注いだ酒が飲めないのか」「付き合い程度なら大丈夫だろう」「練習すればアルコールは強くなれる」などの発言と共に、断りにくい雰囲気を作り出します。また、「飲み会に参加しないと昇進や評価に響く」「チームワークを乱す」と脅迫的に参加を強要するケースも頻発しています。
イッキ飲ませの被害も深刻で、新入社員歓迎会や忘年会などで「場を盛り上げるため」という名目で強制されることが多く、急性アルコール中毒のリスクが極めて高い危険な行為です。厚生労働省のe-ヘルスネットによると、急性アルコール中毒は毎年一定数の方が亡くなるほど深刻な症状で、特に若者の救急搬送が多い実態があります。
飲めない人への配慮を欠く行為では、アルコール体質でないことを伝えても「少しくらい飲めるようになった方がいい」「男のくせに飲めないのか」「体質的に飲めない人なんて、いるわけない」などと侮辱的な発言をしたり、宴会にソフトドリンクを一切用意しないなどの嫌がらせが行われています。
ゼネラルリサーチ株式会社の調査によると、アルハラを受けたことがある人は40%に対し、アルハラをしたことがあると回答した人はわずか10%で、加害者の認識不足が深刻な問題となっています。多くの加害者は「お酒を飲むことで互いに腹を割って話せる」「コミュニケーション向上のために飲み会での交流は必須だ」といった考えを持っており、嫌がっている相手に強要しているという自覚がないのが現実です。
アルハラから身を守る効果的な対処法と断り方テクニック

上司や同僚からの飲酒強要を断る具体的な方法
アルハラに直面した際、効果的に断るためには明確で説得力のある理由付けが重要です。最も効果的なのは健康上の理由を使うことで、「医師からアルコールを控えるように指導されています」「現在服用中の薬があり、アルコールとの併用が禁止されています」「アルコール分解酵素が不足する体質のため、少量でも危険です」「過去にアルコールで倒れたことがあります」などの医学的根拠のある表現が相手に理解されやすくなります。
法的な理由も非常に有効です。「車で通勤しているため、飲酒は法的に不可能です」「明日の朝、車の運転予定があります」という理由は、飲酒運転の法的リスクに関わるため、相手も強く勧めることができません。また、「明日の朝一番に重要なプレゼンテーションがあり、万全の体調で臨む必要があります」「明日仕事にならないから無理です」という仕事への責任感をアピールする断り方も効果的です。
家庭の事情を理由にする場合は、具体性を持たせることが大切です。「小さな子どもがおり、夜間に何かあった際すぐに対応できる状態でいる必要があります」「介護が必要な家族がいるため、意識がはっきりしている状態を保つ必要があります」「妊娠を希望しており、アルコールを控えています」などの説明が相手の理解を得やすくなります。
それでも強要される場合は、毅然とした態度で断ることが重要です。曖昧な態度では相手に伝わらず、しつこく勧められる可能性があります。「申し訳ございませんが、体質的に無理です」「これ以上は飲めません」「もう無理です」ときっぱり伝え、必要に応じて「アルハラですか?」と問い返すことも効果的な場合があります。断る際は感謝の気持ちを表現し、相手への敬意を示すことで人間関係への悪影響を最小限に抑えましょう。
アルハラを予防するための日常的な対策と心構え
アルハラから身を守るためには、日頃からの予防策が非常に重要です。まず、自分の状況や価値観を周囲に適切に伝えることから始めましょう。「アルコールアレルギーの検査で陽性反応が出ています」「家族の健康管理方針で禁酒しています」「宗教的な理由でアルコールは摂取しません」「体質的にアルコールを受け付けません」など、事前に自分の状況を説明しておくことで、誘われる頻度を大幅に減らすことができます。
職場での人間関係構築は、飲み会以外の方法でも十分に可能です。ランチタイムでの積極的な会話、業務時間内での相談や提案、社内の勉強会やセミナーへの参加、ボランティア活動やスポーツイベントなど、多様な方法で同僚や上司との関係を築きましょう。普段からよく話す上司であれば説明したら納得してくれるケースが多く、付き合いの長い上司なら「これ以上は飲めない」ときっぱり伝えることで理解を得られる場合があります。
同じような悩みを持つ同僚との連携も効果的な予防策です。複数人で断ることで、個人への圧力を分散させることができます。また、アルハラに理解のある上司や先輩に事前に相談し、必要な時にサポートを求められる関係を築いておくことも大切です。他の上司から断ってもらったり、別の先輩が代わりにお酒を飲んでくれるなど、周囲の協力を得ることも可能です。
証拠保全も重要な予防策の一つです。アルハラを受けた日時、場所、相手、発言内容、周囲にいた人物を詳細に記録しておきましょう。メールやLINEでの誘いの場合は、スクリーンショットを保存し、音声でのやり取りがある場合は可能な範囲で録音することも検討してください。また、その場から離れることも有効で、「気分が悪くなった」「トイレに行く」と言って席を立ち、その人の近くには絶対に座らないという回避策も効果的です。
アルハラ被害の相談窓口と法的対処法の完全ガイド

社内外で利用できるアルハラ相談窓口の一覧
アルハラの被害を受けた場合、一人で抱え込まず適切な相談窓口を活用することが重要です。まず社内では、人事部門、コンプライアンス担当部署、ハラスメント相談窓口が主な相談先となります。多くの企業では匿名での相談も受け付けており、相談者のプライバシー保護にも配慮されています。相談する際は、具体的な日時や発言内容、証拠となる資料を準備しておくと効果的です。
労働組合がある職場では、労働組合への相談も非常に有効です。労働組合は労働者の権利を守る組織として、ハラスメント問題の解決に積極的に取り組んでおり、会社との交渉力も持っています。組合員でない場合でも相談に応じてくれる場合が多いので、まずは問い合わせてみましょう。
社外の公的相談窓口として、厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」があります。この窓口は平日17時~22時、土日祝日9時~21時まで無料で相談でき、日本語を含む14言語に対応しています。基本的には直接相談に乗ってくれるわけではなく、専用の相談窓口を紹介してくれる役割ですが、平日の夜間や土日祝日も利用できるため非常に便利です。
各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」では、専門の相談員が面談または電話で対応してくれます。法テラスでは、法的な相談を無料で受けることができ、一定の資力基準を満たす方は無料で弁護士や司法書士の法律相談も利用できます。厚生労働省の「こころの耳」では、働く人のためのメンタルヘルス・ポータルサイトとして、アルハラが原因で心の悩みを抱えた場合の相談窓口や医療機関を紹介しています。
法的措置を検討する際の手順と成功のポイント
アルハラが深刻で継続的な場合、法的な対処を検討することも必要です。2022年4月から全企業に義務化されたパワーハラスメント防止法(労働施策総合推進法)により、事業主には職場におけるハラスメント防止措置を講じる法的義務があります。会社がこの義務を怠っている場合、労働局への申告により行政指導が入る可能性があります。
民事的な解決方法としては、精神的苦痛に対する慰謝料請求、医療費などの損害賠償請求があります。労働契約法第5条では「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められており、アルハラが労働者の心身の健康に悪影響を及ぼす場合、この安全配慮義務違反として損害賠償請求が可能です。
刑事責任についても、アルハラの内容によって様々な犯罪に該当する可能性があります。脅迫して無理やりお酒を飲ませた場合は強要罪(3年以下の懲役)、無理やりお酒を飲ませて急性アルコール中毒にさせた場合は傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、アルハラ行為を煽った場合は傷害現場助勢罪(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料)、泥酔者を放置した場合は保護責任者遺棄罪(3月以上5年以下の懲役)などが適用される可能性があります。
法的対処の一般的な流れは次の通りです。まず十分な証拠収集を行い、社内の相談窓口への報告、労働局への相談・申告、必要に応じて労働問題に詳しい弁護士への相談という段階を踏みます。この過程で、多くの企業が問題を認識し、改善措置を取ることで解決に至るケースが多く見られます。成功のポイントは、早期の証拠保全と継続的な記録、そして適切な相談先への早めの相談です。法的対処には時間と費用がかかるため、まずは社内での解決を試み、それでも改善されない場合の手段として位置づけることが現実的です。
まとめ
職場でのアルハラ(アルコールハラスメント)は、決して軽視できない深刻な人権侵害です。NPO法人ASKの公式定義に基づく5つの行為類型を理解し、適切な断り方を身につけることで、自分自身を守ることができます。
アルハラは「飲酒にまつわる人権侵害。命を奪うこともある」深刻な問題であり、2022年から全企業に義務化されたパワーハラスメント防止法により、企業には従業員を守る法的責任があります。社内外の様々な相談窓口を活用し、必要に応じて法的対処も検討しながら、あなたの働く権利と尊厳を守ってください。一人ひとりの意識と行動の変化が、アルハラのない健全な職場環境の実現につながるのです。