※お酒は20歳になってから
上司と部下のお酒事情にまつわる「嫌がられてない…?」「実はどう感じているの?」といった本音を、できるだけ多面的に深堀りしていきます。実際にお酒の場で巻き起こる葛藤や心の動きを整理しながら、今後のより良いコミュニケーションのヒントになれば幸いです。
1. はじめに:上司と部下の「お酒事情」というテーマが抱える背景

企業で働いていると、多かれ少なかれ「飲み会」の機会が発生することがあります。特に上司と部下という立場の違いがある場合、その席でのやり取りには特別な意味が生じやすいものです。日本では「飲みニケーション」という言葉が生まれるほど、職場のコミュニケーションを深める場所として飲み会が活用されてきた背景があります。
しかし昨今では、働き方改革やコロナ禍の影響、個々の生活スタイルや価値観の多様化によって、飲み会そのものの形が変化しつつあります。オンライン飲み会の普及であったり、そもそも「会社の人とは仕事終わりに会いたくない」「お酒が体質的に飲めない」「プライベートの時間を大切にしたい」などの声が大きくなってきたりもしました。
さらに、かつては部下が上司に付き合わないと昇進や評価に影響が出るのではないかといった“暗黙の了解”や、少なくとも“無言の圧力”が存在していたケースもありました。あるいは、上司が「部下と仲良くなろう」「いろいろフォローしてあげよう」と思って開催した飲み会が、部下の方には「強制的に連れまわされている」「正直疲れる」という負担に感じられることもあります。
上司側としては「ただ親睦を深めたいだけなのに、迷惑なのかな…?」と感じ、部下側としては「断ると角が立つし、行っても気を遣うだけ。どうすればいいんだろう?」とモヤモヤした思いを抱えがちです。本記事では、そのような“上司と部下のお酒事情”を取り巻くさまざまな本音と、実際に嫌がられないために気をつけるポイント、さらには飲み会の「これからのあり方」について考察していきたいと思います。
2. 部下目線:「上司との飲み会って正直どう感じているの?」
まずは部下側の視点で、上司との飲み会をどのように感じているのかを深掘りしてみます。これはあくまでも一般論ではありますが、以下のような本音が挙げられることが多いようです。
2-1. プライベートの時間を奪われる感覚
かつては「仕事後に一杯行こうか」と言われるのが当たり前でしたが、現代ではワークライフバランスやプライベートを重視する風潮が強まっています。結婚・子育てなどの事情も含め、帰宅時間が遅くなることは避けたいと考える人が増えました。そのため、たとえ好意的な誘いでも、プライベート時間を削られるように感じてしまう場合があります。
2-2. お酒が弱い・飲めない場合の気まずさ
部下のなかにはお酒そのものが体質的に合わない人や、健康上の理由、あるいは宗教的・個人的な主義でアルコールを飲まない人もいます。そのような人にとっては「飲み会」と銘打たれる場そのものがハードルとなり、行っても楽しめない、というケースが起こりえます。上司から見ると「飲めなくてもいいよ」と軽く言ったつもりでも、本人としては“何となく居づらい”と感じることもあるのです。
2-3. 結局仕事の話に終始しがち
「飲みニケーション」という言葉があるように、職場の飲み会は仕事の話をオフの雰囲気でできるメリットがあります。しかし、それが行き過ぎると「酒の力に任せて仕事の愚痴を延々と聞かされるだけ」「あれこれ指示される場になってしまう」など、仕事の延長のようになってしまう可能性があります。部下からすると「オフのはずなのにずっと仕事の話を聞かされて疲れる」という印象を抱きかねません。
2-4. 上司への本音を言いづらい
飲み会とはいえ、基本的には上下関係は変わりません。しかもお酒が入ったことで本音が出やすくなる反面、上司を目の前にして本心をさらけ出すのはリスクと隣り合わせです。「酔って失言しそう」「普段言えない文句をうっかり口にしてしまうかも」と心配してしまい、逆に気が張ってしまうことも多々あります。上司は「腹を割った話をしたい」と思っても、部下側が本当に腹を割るには相当の信頼関係が必要です。
3. 上司目線:「部下との飲み会、どう思われているのか不安…」
一方、上司の側にもさまざまな葛藤があります。部下が増えてくると、仕事だけでなくメンタル面のケアやモチベーション管理も意識する必要があり、その手段として“飲みニケーション”を考えるのは自然な流れともいえます。ところが、現代の風潮に合わせて「誘うのも迷惑かな」「行きたくない部下を強引に引っ張っていると思われないかな」と気がかりも少なくありません。
3-1. 雑談やプライベートの話で距離を縮めたい
会議室やデスクでは交わしづらいテーマを、リラックスした雰囲気で共有し合うことは、人間関係を深める上で大切だと考える上司は少なくありません。仕事での悩みを相談しやすい場を作りたい、本音を聞いてサポートに活かしたい、といった意図がある場合もあるでしょう。
3-2. かつての職場文化に基づく「当たり前」
上司側が管理職レベルとなると、若い頃の職場体験には「上司が奢ってくれる飲み会こそが部下育成の場」だった時代の名残があり、そこに良い思い出を抱いている場合があります。「自分の上司に可愛がってもらったから、今度は部下を可愛がりたい」「飲み会に参加しないと可哀想」といった、善意から来る考え方です。しかしこれが現代の若手社員には「押し付けがましい」「古い付き合い方」と映る可能性があります。
3-3. 嫌がっているかどうか本人に確かめづらい
上司が飲み会を開催する際、いちいち「嫌じゃない?」「迷惑じゃない?」と聞くのは難しいものです。実際、業務上の上下関係があるために部下が本音で「行きたくありません」と言いづらい場面も多いでしょう。その結果、「みんな参加しているから大丈夫なのかな」と思っていたら、実は部下の多くが内心嫌がっていた、というミスマッチが起こり得ます。
4. 飲みニケーションの目的とは何か?

そもそも、なぜ人は会社の仲間と飲みに行くのでしょうか。そこには以下のような意図や効果があると考えられます。
- 普段言えないことを話す機会になる
仕事中はなかなか切り出せない悩みや意見を、お互いにリラックスしながら話せる場。 - 距離感が縮まりやすい
お酒という“潤滑油”を通して上司と部下、同僚間でも素の自分を出しやすくなる。 - 組織力の強化
直接業務とは関係ないコミュニケーションを取ることで、横のつながりや信頼関係が向上し、結果的にチームワークやモチベーションが上がる。 - 人となりを知る
仕事では見せない表情や考え方が垣間見え、相互理解が深まる。
このように、飲み会には一定のポジティブな役割があります。しかし、時代や個々の事情の変化を無視して“一律に”行えば、逆に逆効果になりかねません。本当に飲み会が望まれているかどうか、あるいはそのスタイルがどうあるべきかをきちんと検討することが大切です。
5. 「嫌がられてない…?」と悩む上司ができること
上司の側としては、せっかく部下のことを思って企画した飲み会なのに、実は嫌がられていたら大ショックですよね。ここでは、上司が嫌がられないために注意すべきポイントを具体的に挙げてみます。
5-1. 強制参加の空気を出さない
もっとも大切なポイントは「強制感を与えない」ことです。昔は「断れるはずがない」とされていた飲み会も、現代ではなるべく任意参加の形を取り、断りやすい空気をつくることが望ましいです。
- 「都合が合えばどう?」と控えめに誘う
- 人数を限定せず、希望者だけ参加を募る
- 他のイベント(ランチ会やスポーツ観戦など)とセットで企画して選択肢を増やす
こうした工夫によって、「嫌な人は無理に来なくてOKですよ」というスタンスを明確に示すだけでも、心理的ハードルは下がります。
5-2. お店選びや時間設定にも配慮
お酒が苦手な人でも楽しめるように、ノンアルコールカクテルやソフトドリンクの種類が多いお店を選ぶのもポイントです。また、家庭のある社員や遠方から通う社員は終電時間に余裕を持つ必要がありますから、開始時間を早めに設定してサクッと2時間程度で終えるといった配慮も大切です。
5-3. お酒だけではなく“コミュニケーションの目的”を再確認
飲み会を「ただ飲むため」「昔からの慣習だから」ではなく、「これからのチーム作りを一緒に考えたい」など、目的を明確に伝えることも重要です。部下としては「ダラダラと飲み続けるだけか…」と思っていた飲み会に、何らかの意義を見出せると参加意欲が変わってくる可能性があります。ただし、本当に目的があるなら、それに沿ってほどほどの時間で切り上げるなどの“運営力”も問われます。
5-4. その人の“飲める量”や“好み”をリスペクトする
上司や周囲がアルコールを強要するような場になると、一気に相手は嫌な気持ちになります。特に、自己防衛のために「飲めない体質なんです」と断っている人に無理に勧めるのは厳禁です。「お酒が苦手だけど食べることは好き」という人には美味しい料理を楽しめるお店を選ぶなど、その人が少しでも気兼ねなく過ごせるように配慮することが好印象につながります。
5-5. 会話のテーマを一人占めしない
上司が延々と自分の武勇伝や仕事論を語ってしまうと、部下は聞き役に回って疲弊してしまいます。飲み会は仕事場ではできないフラットなコミュニケーションが大切です。会話のイニシアチブを握りつつも、「最近どう?」「プライベートは楽しめてる?」など、自然に相手に話題を振って対話を成立させましょう。
6. 部下側としての心がまえ:「断り方」と「付き合い方」
部下としても「本当に苦痛だから絶対に行きたくない」「ちょっと興味はあるけど、タイミングが合わない」といった状況はあるでしょう。一方で、上司からの誘いをどう断るのか、あるいは参加したはいいけどどうやって過ごすのか、という悩みもついてまわります。
6-1. やむを得ず断る場合は早めに・誠実に
体調不良や家庭の事情、経済的事情などでどうしても参加が難しい場合は、できるだけ早めに正直に伝えましょう。「すみません、その日は用事があるので…」など、理由が曖昧すぎると不信感を持たれる可能性もあるため、差し障りない範囲で事情を説明すると角が立ちにくいです。
6-2. 参加するなら「ポジティブなスタンス」を心がける
断れずに参加することになった場合でも、どうせ行くなら「楽しもう」「学ぼう」と少しポジティブに捉えるのも一案です。飲み会でしか聞けない上司や先輩の経験談は、案外勉強になることも多いですし、「こういう人なんだ」という人となりを知るチャンスにもなります。これを機会に距離が縮まれば、その後の仕事がスムーズに進む可能性も高まります。
6-3. 飲めない・飲みたくない場合はきちんと意思表示
無理にお酒を勧められても、健康上の理由や体質的に厳しい場合は、明確に断りましょう。「申し訳ありません、体質的にあまり強くなくて…」と言えば、大半の人は理解を示してくれます。むしろ、遠慮しすぎて少しずつ飲んでしまい、翌日体調を崩す方が問題です。
6-4. 自分からも話題を提供してみる
上司と話すのは苦手…と思いがちですが、せっかくの機会ですから、自分の興味分野や最近あった出来事などを話題に出してみましょう。部下の意外な一面を知ることで、上司の理解や評価が変わるかもしれません。飲み会は一方通行のコミュニケーションではなく、双方向のやり取りができるとお互いにメリットがあります。
7. 「飲み会だけがコミュニケーションの手段」とは限らない
飲み会の良さはもちろんありますが、酒席でしか生まれないコミュニケーションが存在する一方で、お酒の場に馴染めない人もいます。また、忙しい現代人にとって、飲み会というスタイル自体が負担になる場合もあるでしょう。そうした背景を踏まえ、近年では「ノミニケーション」以外の取り組みも注目を集めています。
7-1. ランチ会や朝食会、オンラインコミュニケーション
アルコールの有無に関係なくフラットに会話できる場として、ランチ会や朝食会を定期開催する企業も増えています。朝活として栄養バランスの良い朝食を取りながらカジュアルに情報共有をする方法や、リモートワーク中心の場合はオンラインでの雑談タイムを設けるなども有効です。
7-2. スポーツやレクリエーション
ボウリング大会やフットサル、アウトドア・レクリエーションなど、お酒以外の共通のアクティビティを楽しむことで一体感を高めるケースも増えています。とくに身体を動かすことが好きな人にとっては、飲み会よりも積極的に参加しやすいというメリットがあります。
7-3. ショートタイムのカフェミーティング
長時間拘束を避けるために、仕事の合間や就業後の30分~1時間程度、コーヒーやソフトドリンクで軽く雑談できる場を設けるのも一案です。「ちょっとしたティータイム」という形であれば、負担が少なく参加しやすいので、より多くのメンバーの本音を引き出すことができるかもしれません。
8. 変わりゆくお酒事情とワークスタイル:今後の動向
昨今の新型コロナウイルス感染拡大によるリモートワークの普及や、若者の酒離れなど、社会的な変化により「会社の飲み会が激減した」という声は非常に多いです。その一方、2023年以降は徐々にアフターコロナの動きもあり、リアルで顔を合わせるコミュニケーションを見直す動きが増えているのも事実です。今後は以下のような傾向が強まっていくと予想されます。
- 自由参加型の飲み会
「この日、空いている人だけで集まりましょう」という緩やかな飲み会スタイル。強制参加よりも気が楽になり、参加するメンバー間の結束を高めやすいというメリットがある。 - オンラインとリアルのハイブリッド
遠隔地のメンバーも巻き込みやすいオンライン飲み会と、リアルの対面飲み会を組み合わせて、多様な働き方に合わせたコミュニケーション機会を設ける。 - お酒に限らない多様な交流手段
上司と部下が一緒にスポーツをしたり、カルチャースクールや共通の趣味を共有するサークル的活動が増える可能性がある。飲み会では見えない新しい一面を知るきっかけが生まれやすい。
このように、会社組織の在り方自体が変化する中で、「お酒を飲むことがコミュニケーションの柱」という時代は少しずつ過ぎ去ろうとしているかもしれません。一方で「たまには一緒に飲んで語りたい」というニーズも依然として存在します。大切なのは、そこに参加する人たちが「自分の意思で納得しているか」「ストレスなく過ごせるか」を丁寧に考慮することです。
9. まとめ:「嫌がられてない…?」を超えて、今こそ相互理解のチャンスに

上司と部下という上下関係はあれど、同じ組織で働く仲間として、よりよい職場環境を作るために交流を深めることは重要です。その手段として飲み会を利用するのは決して悪いことではありません。しかし、「お酒が好きか嫌いか」「プライベートの時間をどう考えるか」「コミュニケーションの形はどうあるべきか」など、人それぞれの事情や価値観が存在します。
- 強制ではなく任意参加を基本とする
- 目的やメリットを明確にして、ダラダラした飲み会にしない
- 参加者の好みや体質を配慮し、適切な場所や時間を設定する
- お酒以外のコミュニケーションの選択肢も提案する
これらを意識するだけで、「嫌がられてるかな…」という不安はグッと軽減されるはずです。また部下の側も、場合によっては飲み会をうまく活用するという発想を持つと、思わぬ形で仕事の助けになる人脈や情報を得られるかもしれません。上司と部下に限らず、人間関係は双方向の努力があって初めて円滑化します。
いまの時代、「仕事終わりに何かを一緒にする」というだけでハードルが上がる傾向にあります。だからこそ、互いのスタンスを尊重しつつ少しでも楽しい時間を共有できるように工夫することが、一歩先の理解や信頼関係に繋がっていくのではないでしょうか。
結局のところ、“お酒を飲むこと”そのものが本質的な目的ではないはずです。本当に大切なのは、「仕事では見えない部分を知る」「ストレスを発散し合う」「チームとして団結する」など、そこで得られる付加価値です。もし飲み会が嫌がられていると感じているのであれば、一度立ち止まって「お酒を介さない交流手段」を提案したり、「飲み会でもいいけれど、こうすればみんながハッピーになるのでは?」と考えてみることが大切です。
上司としても、部下としても、「いまの時代に合った飲み会の形とは何だろう?」と前向きに問い続ける姿勢こそが、新しい企業文化と円滑なコミュニケーションを生み出す鍵になるかもしれません。お互いに「押し付け合い」や「強制」は避けつつ、相手の気持ちを尊重し合いながら、一緒に過ごす貴重な時間を有意義なものにしていきましょう。