※お酒は20歳になってから
以下では、令和という新時代を生きる20代の若者たちが感じている「お酒との距離感」や「飲み方改革」について、詳しく論じてみます。かつての日本社会では「お酒はコミュニケーションの潤滑油」として重要視されてきましたが、時代が変わり価値観が多様化するなか、20代の若者の間では従来とは異なるお酒との向き合い方が生まれつつあります。そこには、健康志向の高まりやSNSの影響、働き方の多様化など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。本記事では、そうした背景から20代がどのようにお酒と付き合っているのか、またこれからの飲み方がどのように変化していくのかを考察していきます。
1. 昔ながらの「飲み会文化」と日本社会
日本における飲み会は、単に「お酒を飲む」という行為以上に、人間関係の構築や業務上のコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしてきました。たとえば昭和から平成初期までの日本企業では、業務後に上司と部下が居酒屋へ行き、お酒を酌み交わしながら親睦を深める「飲みニケーション」が盛んに行われていました。こうした慣習は「仕事の延長」として捉えられがちで、仕事の成果を上げるためにも必要とされる場面が多かったのです。
「飲みニケーション」は、職場の上下関係や風通しを円滑にするための儀式的意味合いもあったものの、その反面、「飲める人」にとっては楽しくとも「お酒が得意でない人」にとっては苦痛の場になりやすいという問題点も抱えていました。さらに、二次会や三次会へと連なる“無限ループ”に付き合わざるを得ない風潮もあり、ときに身体的・精神的な負担を強いる状況が生まれていたのです。
そうした従来の飲み会文化は、若い世代にとって必ずしも魅力的なものではなくなっています。令和の20代は、上の世代と比べると経済状況やライフスタイルが大きく変化しており、単に会社の人間関係のために時間やお金を費やすことを「合理的ではない」と見なす傾向も強まっているのです。
2. 令和の20代が求める「自由度の高い時間」とお酒の在り方

令和の若者は、仕事とプライベートをしっかり分けたいと考える人が増えています。これはワークライフバランスの意識がより一般的になったことに加え、テクノロジーの進歩により働き方そのものが多様化していることも一因です。職場に長時間拘束されるよりも、自分の趣味や家族、友人との時間を大切にしたいと考える若者も増えており、飲み会に誘われても「行きたくないときは断る」という選択をする人が増加傾向にあります。
お酒の種類や楽しみ方もまた多様になっており、必ずしも「一気飲み」や「泥酔するまで飲む」といったスタイルが歓迎されなくなっています。むしろ、クラフトビールや自然派ワイン、カクテルバーなど、こだわりのあるお店や飲み方に注目が集まっているのです。飲む量よりも「質」を重視することで、味覚や香りを楽しむと同時に健康面への配慮もしようとする動きが見られます。
また、「そもそもお酒を飲まない人」も20代では増えています。ノンアルコールビールやノンアルコールカクテルの種類が増えたことによって、「お酒が苦手だけれど、パーティーには参加したい」という人でも楽しめる場が広がっています。実際、飲食店やコンビニではノンアルコール飲料のラインナップが格段に充実しており、特に若い世代の需要を取り込む形で市場が拡大しているのです。
3. 健康志向の高まりと飲み方の変化
20代の若者の中には、以前の世代と比べて「健康」や「美容」に対して高い関心を抱く人が増えています。これはSNSの普及も大きく影響しており、自分の生活習慣や食事内容が可視化されやすい現代だからこそ、「体に良いものを選びたい」「ダイエットや筋トレの成果を損なうような無茶な飲み方は避けたい」という意識が強くなっているのです。
3.1. 飲酒量コントロールの意識
とくに筋トレやダイエットに励む若者の間では、アルコール摂取が体重や体脂肪率に影響を及ぼすことをよく理解しています。アルコールに含まれるカロリーは高く、糖質やプリン体なども懸念材料になります。そのため、以前のように浴びるほど飲むのではなく、「1杯か2杯程度で満足する」「休肝日を設ける」など、自己管理が行き届いた飲み方を選ぶ若者が増えているのです。
3.2. ノンアルコールや微アルコールへのシフト
健康志向が高まると、当然ノンアルコール飲料や微アルコール飲料(アルコール度数0.5%未満のものなど)の人気が高まります。味覚や香りをできるだけ本物のビールやワインに近づけようと、メーカー各社も研究を重ねており、近年では「これがノンアル?」「これが微アルコール?」と驚くほどクオリティの高い商品も登場しています。20代の若者にとっては「気軽に楽しめる」「酔わずに翌日に響かない」「飲みやすい」などの理由から、こうした商品を積極的に選ぶ人が目立つようになっています。
3.3. ヘルシーなフードやライフスタイルとの組み合わせ
さらに、お酒の場でもヘルシー志向を貫きたいということで、低糖質のおつまみやオーガニック素材を使ったメニューを提供する飲食店が注目を集めています。ワインバーではオーガニックワインや自然派ワインが流行し、ビール好きの間ではクラフトビールのなかでも低アルコールかつ味わい深いタイプが人気になるなど、飲む物や食べる物に対して「こだわり」を持つ人が増えました。こうした変化は、一見すると単なるグルメ志向に見えますが、健康や環境問題への配慮といった意識の表れでもあるのです。
4. SNS世代ならではの「見せ方」としてのお酒

20代はSNSを日常のコミュニケーションツールとしてフル活用する世代です。飲み方や食事をインスタグラムやツイッターなどに投稿することで、「自分のセンスやこだわり」をアピールする傾向があります。そのため、安価に大量消費するスタイルよりも、「写真映えする」「ストーリー性のある」お酒やお店が好まれがちです。
4.1. SNS映えするお店やドリンク
たとえばフォトジェニックなカクテルや、デザイン性の高い内装のバー、あるいはクラフトビール専門店などが注目を浴びる背景には、SNS映えを狙う若者の心理があります。従来の大衆居酒屋でも、フローズンドリンクや特殊な器を使ったメニューを導入するなど、若い客層を取り込むための工夫が増えてきています。一方で、こうした取り組みが「映えること」に特化しすぎると、肝心の味や接客がおろそかになってしまう懸念もあり、バランスが問われるところです。
4.2. 「飲みすぎ」の映像が拡散されるリスク
SNSが普及した影響で、泥酔した姿を投稿されたり、あるいは自分で投稿してしまったりというリスクも高まっています。企業によっては採用や評価において、「SNS上の素行」をチェックするケースも出てきました。令和の20代はそうしたリスクに敏感であり、飲み会の席での無茶な飲み方を戒める声も強まっています。すぐに写真や動画が拡散されてしまう時代だからこそ、「お酒とのほどよい距離感」を意識する人が多いわけです。
5. コロナ禍がもたらした飲み方の変化
世界的に広がったコロナ禍は、日本の飲酒文化にも大きな影響を与えました。居酒屋が時短営業や休業を余儀なくされる中で、若者の間では「宅飲み」や「オンライン飲み会」が一時的に普及しました。コロナ禍でリモートワークやオンライン授業が増えたことも、若者のライフスタイルを大きく変えています。
5.1. 宅飲みのブームとその影響
外出自粛の時期が続いたことで、コンビニやスーパー、ネット通販で手軽に買えるお酒で「宅飲み」をする機会が増えました。もともとお酒が苦手だった人にとっても、宅飲みであれば「自分のペースで飲める」「好きなものだけ用意して楽しめる」というメリットがあります。居酒屋のように人と合わせて飲む必要がないため、飲む量や銘柄の選択も自在です。
この傾向はコロナ収束後もある程度は続くと考えられます。外食費を抑えたい若者や、人混みを避けたい人にとって、宅飲みのスタイルは魅力的な選択肢となり得るでしょう。NetflixやYouTubeを観ながら、好きな音楽を聴きながらといった形で、よりパーソナライズされた飲み方が定着しているのです。
5.2. オンライン飲み会の功罪
コロナ禍で急増したオンライン飲み会は、画面越しに会話を楽しむ新しいコミュニケーション手段として一時的に注目を集めました。遠方に住む友人や仕事仲間とも気軽につながれるという利点はありましたが、一方で通信環境によるストレスや、画面越しのコミュニケーションの難しさを感じる人も少なくありませんでした。結局、オンライン飲み会自体はコロナ禍が落ち着くにつれ下火にはなりましたが、遠距離や忙しいメンバー同士が「顔を合わせる」ための選択肢として、今後も細々と続いていく可能性は高いでしょう。
6. お酒を飲まない/飲めない人への理解と共生
令和の若者の飲み方改革で注目すべき点のひとつは、「お酒を飲まない選択」をする人への理解が進んでいることです。かつては「飲めないのは損」「付き合いが悪い」と見なされたり、無理やり勧められたりすることも多かったですが、今ではそうした圧力に対して敏感に反応し、批判を浴びるケースが増えました。
飲み会文化が完全になくなるわけではありませんが、「強要はしない」「ソフトドリンクで参加してもOK」という風潮が広がっています。これもまた、多様性や個人の尊重を重んじる令和ならではの現象といえるでしょう。
7. 飲み会の目的再考:真のコミュニケーションとは
一方で、令和の20代がまったく飲み会に参加しなくなったわけではありません。むしろ、大切な仲間や恋人との特別な時間として、お酒を味わいながら「語り合う」ことを重視するケースも多々見られます。そこで重要になるのが、「飲み会の目的」を明確にすることです。
- 親交を深める:職場やサークル、友人グループ内でのコミュニケーションを円滑にするために、飲み会を企画するケース。
- 趣味を共有する:クラフトビールや日本酒、ワインなど特定のお酒に興味がある仲間と、一緒に知識を深めるための会。
- 特別なイベント:誕生日や記念日などに高級レストランやバーを利用し、特別な一杯を楽しむ。
令和の若者にとっては、ただ漫然とみんなで集まって飲むだけの会合は敬遠されがちです。むしろ、飲み会の目的やテーマがしっかりしており、参加者全員が楽しめるような場をつくることが重視される傾向にあります。これは「コミュニケーションの質」に対するこだわりが強まっている表れでもあるといえるでしょう。
8. 飲食業界・企業側の取り組み
こうした若い世代の動向を受けて、飲食業界や企業側も変化を求められています。たとえば、居酒屋チェーンでは「ノンアルコールカクテルの充実」「おしゃれな雰囲気づくり」「短時間で満足度の高いプラン」などを打ち出すことで、若い客層を取り込もうとしています。さらに、アルコールハラスメント(アルハラ)や飲酒強要が問題視される中、企業の研修や職場のガイドラインに「飲み会のあり方」を盛り込むところも増えてきました。
職場の飲み会でも、「絶対参加」が求められるものから「自由参加」へ移行する動きや、オンライン参加を選択できるハイブリッド形式など、若者のライフスタイルに合わせた柔軟な対応が見られます。これらの取り組みは、20代だけでなく全世代にメリットがあるともいわれており、結果的に多様な働き方や生活スタイルが認められる環境づくりにつながっています。
9. これからの飲み方改革はどう進む?
令和を生きる20代の飲み方改革は、まだまだ過渡期といえます。今後もテクノロジーの進歩や社会の変化によって、若者のお酒の楽しみ方は多様化していくでしょう。たとえば、以下のような展開が予想されます。
- オンライン×リアルの融合
既にオンライン飲み会という形で一部は実現されていますが、仮想空間(メタバースなど)での飲み会や、プロジェクション技術を使った新感覚のバー体験など、リアルとバーチャルを組み合わせた飲酒体験が普及する可能性もあります。 - ウェルネスとのさらに深い融合
飲酒によるリラックス効果やストレス軽減の側面をより科学的に捉え、健康管理アプリやウェアラブルデバイスと連携して「最適な飲酒量」や「飲むタイミング」をアドバイスしてくれるようなサービスが登場するかもしれません。 - 環境配慮型の飲料市場の拡大
若者の間ではSDGs(持続可能な開発目標)の浸透もあり、環境に優しい製法やフェアトレードの素材を使ったお酒が支持を得ています。今後はさらに環境配慮型のクラフトビールやオーガニックワイン、カーボンニュートラルなウイスキーなどが注目を集める可能性が高いと考えられます。 - 地域との連携強化
若者の間でも地元の特産物を活用したクラフトビールや地酒が人気となっており、地域活性化と連動した取り組みが広まることが期待されます。観光やイベントと結びつき、オンラインでもリアルでも地域の魅力を発信する機会が増えるでしょう。
10. 終わりに:多様な「飲み方」が共存する時代へ

以上のように、令和の20代は「お酒との距離感」や「飲み方」そのものを再定義しつつあります。健康志向やSNS映え、ワークライフバランス、そしてコロナ禍を経て生まれた新たな価値観など、多様な要因が絡み合っているのが特徴です。かつてのように「飲める人が偉い」「飲み会への参加が義務」というような風潮は薄れ、個人の選択を尊重する考え方が定着し始めています。
そうした中で、飲み会やお酒が全く不要になるわけではありません。むしろ「楽しい時間を共有したい」という本質的な目的は、世代を超えて変わらないものです。ただし、その楽しみ方や場のつくり方、参加する/しないの自由度については、過去の慣習に縛られない柔軟な発想が求められています。20代の若者は、自分たちに合ったルールやマナーを創造し、新しいコミュニケーション文化を育んでいる最中といえます。
今後もさまざまな飲酒スタイルが生まれ、社会全体としての飲み方改革が進んでいくでしょう。そしてそれは、アルコールの是非だけでなく、人生や時間の使い方そのものを問い直す動きにもつながっていくのではないでしょうか。令和の若者たちが切り開く、新しい「飲み方」と「お酒との付き合い方」。その行方は、個人の健康と幸福、そして社会の豊かなコミュニケーション文化を両立させるための重要な指針となりそうです。
※本記事が、令和の20代がどのようにお酒との付き合い方を変えているのか、そして飲み会文化そのものをどのように捉えているのかを考える一助となれば幸いです。今後もお酒と人との関係は多様なかたちで変化していくことが予想されますが、その過程で生まれる新しい風習やマナーが、より多くの人にとって快適で楽しいものになることを願っています。